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ビールとにわか雨と言語境界線の国で、 美術と歴史の迷宮を彷徨中の 留学生活の覚書
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ここ数日の真夏日もひと段落したようで、今日はしのぎやすい薄曇りの一日でした。

OBの研究者の博論出版記念のプレゼンテーションがあDSCF2505-2.jpgったので、
アントウェルペンに出かけてきました。

会場は “ロコックスの家”。 17世紀初頭にアントウェルペン市長を
務めたニコラース・ロコックスの邸宅美術館です。17世紀のインテ
リアに囲まれての、何とも豪華なプレゼンでした。

著書のテーマは”社会的構築物としての、17世紀アントウェルペン
における芸術支援活動の研究”。要は、パトロネージ活動において
当時のエリートたちが果たした役割を、社会システムの中に位置づ
ける試みです。私もまだ読んでないので、あまりよく知りませんf(^^;

DSCF2463-2.jpg  ベルギーでは、学会はもとより、
  どんな小さな内輪の研究会でも、
  終了後にレセプションが準備され
  ていることが多いのですが、今回
  は博論出版というめでたい場だっ
  たので、懇親会もまた豪華。  
  アントウェルペンまでの国鉄の平日料金の元を取りたい
  oeverは、この後、あちこち回る予定だったので、飲み過
  ぎないようブレーキをかけるのに一苦労でした。
  
  2時頃お開きになった後、まずはそのままロコックスの家を見学。
  企画展はそれなりに、脱・マンネリを目指して頑張った感がありましたが、
いかんせん、テーマが今ひとつ陳腐な上に大づかみで。Ooggetuigen an de Schelde, 
「スヘルデ河岸の目撃者」展…?? 直訳するとどうにも妙なタイトルですが、要は、衣・食・住はじ
め、17世紀のアントウェルペンの市民生活にズームインしようという企画です。

それなりに面白かったのは、17世紀の美術品・家具調度と、
王立アカデミーの学生の作品DSCF2428-2.jpgとの並列展示。
いや、ただ単に、同じモティーフを表現した古今の作品を持
ってきて並べただけの比較展示ならよくあるんだけど、ここ
のは、「同じようなモティーフを扱うに際して、昔と今とでどの
ような“感覚の違い”があるか」という、より本質的な問題に
それと意図せず迫っていて、興味深かったです。
                                    DSCF2429-2.jpg                       
   どういうことかと言いま
   すと、右の写真、“食物”
   に関する展示のある
   大サロンなんですが、
   壁には、ビューケラール
   の市場画やスネイデル
   スの食卓画など、DSCF2434-2.jpg
   食物をテーマとする
   17世紀の絵画を展示し、
その横に、王立アカデミーの生徒さんたちの魚のリアル
イラストレーションや海洋生物のモティーフをデザインに用
いたセラミック、食品サンプルっぽいオブジェなんかを展示
しています。
かつては、市場画・食卓画を中心とする“タブロー画”のモティ
ーフだった魚や青果は、今ではインダストリアルデザインや、
リアルイラストレーションの分野で生き続けている。
もはや、市場画や食卓画って、現代ではあんまりニーズが
ないわけですね。少なくとも、一般家庭において、17世紀と
同じように、食堂やキッチンの壁に飾るために必要とされる
ことって、ほとんどないはず。
でも、個々のモティーフはちゃんと生き残っていて、図鑑の挿絵だの、陶器の絵付けだの、
食品サンプルだの、専らそういう実用的なもの、デザイン的なものに引き継がれている。

これは別に市場画、食卓画に限ったことじゃなく、伝統的なタブロー画の全ジャンルに
おいて共通していることですが、印刷技法の改良、写真の発明、様々な新しいメディア
の導入、映像など3次元のイメージの普及、その他諸々の変化を経て、絵画は一般生
活からむしろ遠ざかっていった。
変わったのは、表現技法や美意識という表層だけじゃない。根本的な“受容”の在り方、
美術という“不必要な必需品”に対する姿勢そのものが変化したのです。
これはまあ、当たり前っちゃ当たり前のことなんですが。
でも、様式やイコノグラフィーといった表現形式面の研究を切り捨てるわけにいかない
美術史という学問の枠の中で、ともすれば無視されてきた感があるのが、この“受容”
という側面でした。
さすがにかつてのような図像学一辺倒の論文は見られなくなりましたが、それでもやはり、
“誰が、どこで、何のために”その作品を必要としたのか、という最も根本的な問いを明ら
かにする作業は一筋縄ではいかないのです。
ひとつひとつのケーススタディが、長い時間をかけて大きな情報の集積となり、その中か
ら、確実にいえることを精選していった先に、初めていくつかの学術的成果が生まれる
――地味で孤独で、忍耐を要求される作業ですが、それでも自分が今取り組んでいる
ことが、何かの形でこの分野の発展に資する日がくることを信じつつ、私も細々と研究を
続けている次第です。

DSCF2490-2.jpg  相変わらず静かで落ち着いた美しい庭園を歩き、
  ピーテル・ブリューゲル二世の《ネーデルラ
  ントの諺》(ベルリンにある父ピーテル一世の
  同主題作品のコピー)を観て、ロコックスの家
  を出ます。さて、次は南へ。
  
  アントウェルペン・ベルヒェム駅からほど近い、
  コーヘルス・オシレイという通りを散策します。
  
  ここはアール・ヌーヴォーDSCF2519-2.jpg建築
  で有名な一画で、やたらクルク
  ルうねうねした建物がいっぱいなのですが、その他
にも、ネオ・ルネサンス様式、アール・デコっぽいのなど、
様々なスタイルの建築が混然と個性を競いあっています。

もともと、ここは19世紀~20世紀初頭にかけて開発された住宅
地区で、歴史主義建築全盛の時代に、お金持ちが競って様々
な様式の邸宅を建てたという背景があります。

DSCF2570-2.jpg   今では多くの建物が文化財扱いになっているものの、だいたい
   が一般の人の住居として使われているそうです。通りを歩いて
   いて、何度か、貸家を示す”TE HUUR”の立て看を見ました。
   価格は明記してありませんでしたが、いったいoeverの家賃の 
   何十年分に相当するのやら…
  
   ともあれ、植物のつるのように、絡み合い広がり這い上がり滑り
   下りる階段の手すりやバルコニーの柵、モザイク壁画や人像柱
   など、どっちを向いても、純粋に意匠として目を楽しませてくれる
   建築構造があふれかえっていて、感心して見て回っているうちに、
   すっかり長居してしまいました。

さてさて、最後に、再びセントルムに戻って、久し振りにスヘルデ川DSCF2601-2.jpg
を見て帰ることに。
旧市街側から川に向かうと、川縁に雰囲気満点の石造りの城塞が
姿を現します。13世紀初頭に建てられたステーン城です。
いつもは、この城のふもとにある周歩廊から対岸を眺めて終わりな
のですが、今日は、ふと思いたって、対岸へ渡ってみることにしまし
た。

DSCF2607-2.jpg  エレベーターで地下へ下り、河底を走る
  シント=アンナ・トンネルへ。
  …長い。
   出口が見えん(汗)
  全長572mだそうですが、地下の閉塞感
  のせいか、ものすごく長く感じます。
  やっと渡りきったところで、さらに長いエス
  カレーターを上がり、地上に出ます。
   
DSCF2614-2.jpg     コレコレ →。
  この風景が見たかったんです。
カテドラルの尖塔をランドマークに、淡灰色に霞んだアント
ウェルペンの街。
16世紀の黄金時代、何人もの画家が、この港湾都市の栄光
を讃えるかのように、船舶の行き交うスヘルデの向こうに浮か
ぶ街のシルエットを、作品の遠景に描き込みました。
ピーテル・ブリューゲル一世の《二匹の猿》(ベルリン、国立美
物館)の背景にも →bruegel47-2.jpg

(や、角度が違うのは勘弁してください f( ^ ^;
もうちょっと下流に行ったら、この絵と同じ視点が見つかったかもし
れませんが、疲れてそこまでする余力がありませんでした)

街並みも河岸の様子も大きく変化したけれど、大聖堂の鐘楼
がひときわ高くそびえているのは変わりませんね。画家たちが
目にしたのと同じランドマークを、450年経った今、自分も目に
しているのだと思うと、何だか感慨深いものがあります。


帰り道で迷ったoeverがへろへろと中央駅に辿り着いたのは
19時45分。日が長くなったとはいえ、そろそろ夕暮れ時の車窓
の外には、一面のキンポウゲの野原がそよいでいる風景が
どこまでも続いていました。

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【De Nederlandse versie】

Vandaag ben ik in Antwerpen geweest om een presentatie
door een afgestudeerde student van onze faculiteit bij te wonen,
die net zijn Ph.D thesis gepubliceerd heeft.

De presentatie heeft in het Rockoxhuis, het residentie-museum
van de burgemeester van Antwerpen in het begin van de 17e 
eeuw, Nicolaas Rockox, plaatsgevonden.

続きます。たぶん。

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