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ビールとにわか雨と言語境界線の国で、 美術と歴史の迷宮を彷徨中の 留学生活の覚書
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更新をサボっている間に、3月も末になってしまいました。

ベルギーは、ようやく暖かくなってきたと思った矢先、今週から、もう何度目だかわから
ない寒の戻りに見舞われています。アルデンヌ地方では、一昨日、積雪のために国道
が封鎖されたりしていました。
DSCF7441-2.JPG
DSCF7439-2.JPG  写真は、月始めの頃に
     下宿近くの環状道路
     (リング)沿いで写した
  ものです。
  クロッカスが花盛りで
  した。
  
  短い春でしたね・・・


 *                  *                  *


最近のニュースで目についたものをひとつ。

インターネット上で行われている交通省の危険運転防止キャンペーン "Het Testament
van" ( www.hettestamentvan.be )が物議をかもしています。
身の周りに、危険運転常習犯の友人はいませんか? あなたが彼/彼女から相続したい
ものをピックアップして遺言を作ってあげましょう、というなかなか過激なキャンペーンです。
PR用VTRを見てみました。

映像は、日本で歳末によく放送される『実録!交通警察24時』とかのタイトルのついた
特番でよく見かける感じの、パトカーが違反車両を追跡する場面から始まります。
猛スピードで傍らを追い抜いていった乗用車を追いかける警察車両。警察官二人組が
停止させた車の周りをぐるっと回って検分しつつ、おもむろに助手席の窓をノックします。

なぜか運転手ではなく、助手席の男性に向かって、パスポート提示を命じたり、「85
km/時出してたね?住宅街での規定最高速度は?」などと注意するお巡りさん。
ひととおりの手続きがすんで、改めて「それじゃ、ちょっと遺言(testamentje)のシステム
を説明させてもらうから」と、何やら雲行きがあやしくなってくる。助手席の男性もポカンと
しています。

「あなたは、そっちの友人(運転手)から何を相続するか、もう決まってますか」と警官。

「でも、彼まだ死んでませんよ…」とごもっともな反論に対して、曰く、「いや、彼の運転
の仕方では、どっちにしてもそう長いこと無事に走っていられないでしょうからね」。

そこから、どんどん壊れたやりとりが始まります。

 P(警察官)「さあ、何を相続しますか?」

 M(助手席の男性)「でも、友達だし、そんな、・・・」

 P 「携帯電話とか?彼ケータイ持ってる?」

 M 「ケータイならオレら全員持ってますが・・・」

 (後部座席の友人が口をはさむ:)「あいつのはiPhoneだぜ」

 P 「(書きとめる:)携帯電話・・・と。
    (騒いでいる後部座席に向かって)ちょっと黙っててもらえますか?
    時間ないんで、サクサクいきましょう。他には?」

 M 「・・・プレイステーションとか」

 P 「プレイステーションね。はい。」

 M 「ええ、ああ、いや、やっぱりWii一式で」

 P 「プレイステーションとWiiと両方持ってるの?それじゃ、プレイステーションのほうは?
   誰か欲しい人?・・・OK、とりあえず、あなたがWiiね。お名前どうぞ、◆×▽さんですね、
   ハイ」

そんな調子で、ものすごい事務的に、相続希望の品々を書きとめていく警察官。

ピールグラスのコレクションだとか、Nikonのカメラだとか、後部座席の友人どもも加わって
次々に運転手の財産がリストアップされていく。
このあたりで我慢ならなくなった運転手、「いったい何なんだコレは!」とキレる。

 P 「ハイ、あなたは黙ってて」

何って、見ての通りだよ、我々はあなたの遺言を作っている最中だから。

ここで、助手席の友人が遠慮勝ちに「これはちょっと変な質問かも」と前置きして、

 M 「彼のポルノ雑誌コレクションを相続しても・・・?」

運転手、再びブチ切れる。「いい加減にしやがれ」

 P 「なるほど、ポルノ雑誌のコレクションねぇ。悪くない選択だ」

そして事態はさらにエスカレート。

後部座席の男女2人のうち、女性のほうは運転手の彼女らしい。すると男性のほうが、

 「人間を相続することもできますかね・・・?」

 -もちろん。誰のことを念頭に? 彼の恋人とか?そちらにいる?

 P 「ふむふむ。そりゃことのほかいい選択だ。美人だし。・・・お嬢さん、同意しますか?
   同意しますね?」

目を剥いていた女性、唖然としながらも、ちょっと考えて、…OK... と。

 P 「Prima! 3ヶ月間の服喪期間はどうします?要らないですか?」

 うーん。。。できればナシの方向で、と女性が答え、彼氏である運転手とモメ始める。
 -だって、アンタが死んだってアタシは自分の人生生きてかなきゃならないんだから、
 そうでしょ? -ああそうかよ(怒)。 -アンタのことは好きだってば、でも、もし死んじゃ
 ったらさぁ? -ああ、ああ、そうだろうよ、オレが死んだら、オレの親友とよろしくヤるんだ
   ろ。

泥沼になってる二人をよそに、後部座席から再び、運転手のノートパソコンに相続希望
が出る。

 P 「えー、では、こちらの彼はビールグラスとポルノコレクションとWii、後ろのお友達は
   ラップトップと彼女、そしてお嬢さんはNikonのカメラ、ですね。あとは・・・ペットは?
   なんか飼ってます?」

結局、ペットのジャーマン・シェパードは、なぜかもう一人の警官に相続されることが決まり、
Merci, とお礼をいう警官。なんか悪いねぇ、本官まで。
とうとうたまりかねた運転手、車から飛び降りてどっかへ立ち去ってしまう。

最後に”あなたの周囲に無謀な運転をする人はいませんか?あなたが相続したい彼(彼女)
の所有物をあらかじめ伝えておきましょう” というテロップが。

当該のウェブサイトには、実際に遺言作成のフォームも用意されています。


・・・・・・・・・

何だかな・・・

フランドル的ユーモア、の一言に尽きる。

話題性を狙ってのことだろうから、成功してないとは言い切れない。が、残念ながら、どう考え
てもこれで危険運転が減るワケはないんであって、うーん、何がしたいんだ交通省。


それはともかく、これを見て第一に感じたのは、こういうシチュエーションが日常で実際にあ
ったとしても、あんまり違和感がないということ。
危険運転=死だからね、遺言くらい作る覚悟でいなさいよ、当然の責任でしょうが、という
極論は確かに突拍子もないんだが、VTRの会話が、平然とした顔のままでどんどん危ない
方向にズレていく”ズレ方”そのものは、ここで普通に見かけたり体験したりしても一向に驚か
ないだろう類のものだった。

なんというのだろうか。何事においても中庸・中道をこととするように思われているベルギー
人の国民性において、真にユニークなもの、アイデンティティと呼べるものは何か考えたとき
-私自身、まだまだ語れるほどまでには見極められていないのですが- 、こういう荒っぽ
い”ズレて行き方”というのは、ひとつのキーじゃないかと思うのです。
彼らは基本的に穏健な立場を守ることを好む。だが、同時に、いとも簡単に、そして突如とし
て、荒っぽい極端さをのぞかせることがある。
その豹変がまた、非常に平然としているように感じるのです。言ってることの凄まじさに対し
て空気や口調の変化があまりに少ない、あるいは突然すぎて変化しようがないのかもしれ
ない。
繊細さの中のおおざっぱさというか、抑制の上の暴走というか。国レベルでにしろ、生活レベ
ルでにしろ、常日頃から複雑な状況に対応せざるを得ない、神経を使わされる事態に囲まれ
ているゆえの反動なのか。


交通省の当該キャンペーンサイトの末尾には、こういう文言が記されています ;

”Cynisch? Absoluut. Maar een mens moet af en toe wat scherper uit de hoek komen
om een punt te maken, niet? En als dit de manier is om je vriend of vriendin even te
doen nadenken, is het zonder meer de moeite
.”

(シニカルに聞こえるだろうか。全くその通りだ。しかし、何か困難なことをあえてやろうとする
ときには、時に辛辣にならざるを得ないのではないか。
そして、それがあなたの友人に熟慮を促すためのことであれば、それほど困難なことではな
いはずだ)

【下線部訳の訂正(2009.09.01)】

”…しかし何かをはっきりさせるためには、ときに辛辣な方法で始める必要があるのではない
だろうか。
そして、それがあなたの友人に熟慮を促すためのことであるなら、そうするだけの値打ちが
あるというものだ。”


困難な問題を人一倍抱えている彼らは、同時に、ひどく辛辣な方法でもって、困難に立ち向
かう用意を常に整えているのかもしれない。
というよりも、極端な、ときに非現実的で、破壊的ですらある原則論でもって、解決の難しい
問題に相対する強硬さをかいま見せることによって、相手に危機感を抱かせたり否応なしに
再考を迫ったり交渉の場に引きずりだしたりすることを、好んで切り札のひとつにしているの
ではないか。

まだまだ掴みきれないこの国の精神性、妥協と折衷の裏にあるもっと複雑なメカニズムは、
不可視で、とらえどころがなく、かつ非常に惹きつけられるところでもあります。
  
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